text : Atelier Iris Eternal Mana
[ 雪が、くれた ]
どこを見渡しても、雪、ゆき、ユキ……
ふたり旅立ったクレインとアーリンは、とある北国を訪れていた。
といっても、到着した頃は雪の気配のかけらもなく。
普通に宿に逗留していたのだが。
明くる日、目覚めたら……これでもかというほどの豪雪ぶり。
窓からそとを眺めていたクレインは、開いた口が塞がらなかった。
宿の主曰く、ちょうどその地方名物『雪神夜』にかちあった、らしい。
何でも、一夜にして2階の高さにまで積雪することを指しているそうなのだが。
お客さん運がいいねー雪神夜なんて十年に一度あるかないかだよー、と言われても。
観光に来ているわけでもないので、その雪は決してありがたいものではなく。
旅程を狂わせるものでしかない。
……といっても、特に当てのある急ぎの旅でもないのだが。
「仕方ないだろう。
進めないものは進めない。
この際、溜まっている疲れを癒すのも手だろう」
アーリンは特に気にしたふうもなく、手の込んだ郷土料理を味わい、温泉が湧いていると聞けばさっそく入浴しに行こうと準備をし始める。
観光に来てるわけでもないはずなのに……クレインはアーリンのその順応振りに驚きを隠せなかった。
(急ぎでもないけどさ、でも早くアーリンの身体、もとに戻してやりたいじゃん)
内心ふてくされながら、それでもアーリンと一緒に温泉に入りに行くべく、クレインも準備にとりかかる(実は、ちょっとドキドキもしていたりして)。
温泉は、宿から少し離れたところにある露天風呂らしく。
クレインたちは二階の非常階段から外へ出た。
デランネリ村も足下に及ばない寒さだな
こんな寒さの中、温泉に入ろうと思っても、入るまでに凍死しちゃうぞ――そんなことを思いながら身体を縮こませる。
と。
ふわり、と暖かいものが首に巻きつけられた。
アーリンが、宿で借りてきたマフラーを貸してくれたのだ。
が。
「ありがとう、アーリン。
で、アーリンは?
……って、ェぇぇえッ!!??」
寒くないのか? と問いかけるクレインの声は絶叫にとってかわられた。
なぜなら。
クレインの首に巻きつけられたマフラーの、余ったまだまだ長い部分を、自らの首にも巻きつけたのだ。
自然、身体は密着することになるし、これではまるで……
「どうした? クレイン」
考えるだけでも頭がどうにかなりそうなのに、まして口にするだなんて!
平然と、何も気付いていないかのように振舞うアーリンがいっそ恨めしい。
でも。
そんなところが好きなんだよな、とクレインは首元のマフラーをきゅっと掴む。
さりげなく優しくしてくれるところとか。
自分が言えば、気障ったらしくて痒くて仕方のないことも、彼が言えば惚れ惚れするほどカッコイイところとか。
好きすぎてたまらない――気持ちを抑えきれないでいると、まだ寒さに凍えていると思ったのか、アーリンがそっと肩を抱き寄せてきた。
「こうすれば、寒くないだろう」
「あ、あぁ……」
むしろ、熱くなってしかたない。
けれど、そんなクレインの心情など知る様子もなく。
アーリンが小さく微笑んだ。
「まるで恋人同士、みたいだな」
瞬間、クレインの頭はショートして。
体勢を崩してしまい、アーリンに受け止められてしまった。
心臓の鼓動が、今まで生きてきた中で一番早いと断言できる。
しかも、それをしっかりアーリンに聞かれている自信もある。
もぅダメだ――クレインがぎゅっと目を閉じた、その時だ。
「――そう思ってたのは、俺だけか」
アーリンがいつになく、寂しそうにぽつりと零した。
クレインの動揺を、別の方向にとってしまったらしい。
不快な想いをさせてしまったな、とアーリンは自分の首に巻きつけてあるマフラーを取ろうとする。
別個の個体であるアーリンとクレインの繋がりを解こうと――
「まっ、まさかっ! オレ、オレだってっ……!!」
慌てて顔をあげる。
と、そこに。
瞬きの音さえ聞こえてきそうな至近距離にアーリンの顔があって。
クレインの顔は、一瞬で茹ダコ状態になってしまった。
さらには、アーリンが解こうとしているマフラーを、強くつよく握って、離さないものだから。
その行動を、一切合切見られていたのだと思うと、茹ダコを通り越して青くなってしまいそうだった。
しかし、アーリンはと言えば。
驚いたような表情を見せた後。
「行くか。もうそろそろ着くはずだ」
優しく笑んで、クレインの手を引いた。
今度はきちんと、クレインの動揺の意味を汲み取って。
それをわかった上で、何も無かったかのように触れてくれる。
このさりげない優しさに、自分は惹かれているのだと、クレインは思い知る。
ひとつのマフラーで2人暖まって。
それだけでは足りないと、硬く手を繋ぎあって。
これ以上のことがあったら、オレ、死ぬぞ絶対。
そんなことを考えながら、しかし、この後それ以上のことが待っている……かもしれない可能性に、クレインはまだ気付いていない。
今が、あまりに幸せすぎて――。
さりげなく告ってるなアーリン…
おかしいなぁ、告るのは重大イベントの時! って決めてたハズなのに。
ということで、前作までの3(4?)作品とは別時系列の話だ、ということにしておいてください。
重大イベントの話? まだ話が固まってないので、お目見えするかどうかも未定ってことで(汗)
それにしても… EM1はタイトルに読点を使う率が高いなぁ