text : DRAGON QUEST V
[ 独白 ]
初めから知っていた。
オマエの中には、すでに心占めている人がいるということは。
それは、俺がオマエから奪った人であったり、どこかで生きているはずのまだ見ぬ母親だったり、そして、一夜ではあったけれど壮大な冒険を共にした幼馴染であったりするのだろう。
彼らの存在が、オマエの心の中でどれだけ大きいか、俺にだってわかっていた。
その大きさが分かっていたからこそ、俺がオマエの心の中に入ることができないってこともわかっていた。
俺が、オマエのトクベツになることができないことは、わかっていた。
もし俺が、声に出してオマエにそう言ったなら、オマエは苦笑してこう言うだろう。
――何言ってるの。君だって僕にとってはトクベツな人だよ?
それに対して俺はこう言うんだ。
――当たり前だ。俺はオマエの親分なんだからな。
虚勢を張った心の中で、俺はきっと涙を流すのだろう。
オマエにとって、世界に息づく全てのモノがタイセツな存在で。
オマエが守ろうとする世界に息づく全ての存在の中で、確かに俺は上位に位置するのだろう。
けれど、その地位は、俺が欲した高さに無い。
俺は、もっともっと上に位置していたいんだ。
オマエが語る幼馴染よりも、魔の者に攫われたという母親よりも、俺が命奪ったも同然の父親よりも。
なんて自分勝手で醜い欲望だろうと思う。
けれど、俺はそれだけを支えに奴隷の日々を生きてきたんだ。
オマエを生かすためだけに、俺は生きていた。
その澄んだ瞳に、俺だけが映ればいいと、一体何度思ったか。
けれど、それは口に出していいことではない。
ずっとずっと、自分の中にしまいこんで、墓にまで持って行こうと思っていた。
けれど、俺の意に反して、その思いはどんどん大きくなるばかりで。
いつ破裂してしまうかわからなかった。
もっと重い枷を、つけなければならない。
そう感じたのは、奴隷の日々から解放された時だった。
オマエが幼馴染を訪ねにアルカパに行った時だ。
懐かしそうに、けれど哀しげに幼馴染のいない街を見つめるオマエを見て、俺の中に信じられない衝動が生まれていた。
オマエのそんな哀しい顔を見るのは辛い、けれど、そんな顔にさえ、見つめられていたいと思う。
今はここにいないその幼馴染の少女に、ただならぬ嫉妬を覚えていた。
これでは俺はきっと暴走して、そしてオマエを傷つける。
そんなことだけはしたくなくて、俺は自分の心に戒めを施すことにした。
オマエ以外の人間を思うようにしたのだ。
さすがにオマエほど思うことのできる人間なんてそういなかったが、壊れかけた俺の相談に乗ってくれたマリアには惹かれるところがあった。
マリアには悪いと思っている。
俺の本当の心を知ってまで、俺の伴侶になってくれると言ってくれたのだから。
彼女の慈悲深さは、俺が誰よりも知っているつもりだ。
そんな彼女を、俺も愛している。
けれど、1番の愛かと問われれば、俺は即刻否と答えるだろう。
俺が愛しているのは、オマエだ。
けれどこの感情は、オマエにとっては迷惑以外の何でもないから。
だから、絶対に表に出してはいけないものだ。
マリアを愛することでしか、その感情を抑えることはできない。
オマエの側を離れないと、この感情に食い殺されてしまいそう。
本当は、心に素直に、全てをぶちまけてオマエを抱きしめたいのに。
世界が崩壊しようが、それが叶うことはありえない。
ラインハットに平和を取り戻し、俺はその平和を維持するため、オマエは己のやるべきことのため、俺達は別の道を歩むことになった。
別れる瞬間、オマエが俺に見せてくれた哀しげな笑み――俺は、それが見られただけで満足だった。
哀しんでくれる、それだけが救いだった。
離れることで、胸に秘めた想いを消し去ることができれば。
そう思って旅立つオマエを見送った。
俺の見知らぬ大陸へ、オマエは仲間と旅立っていった。
オマエが従える仲間と、馬車と、オマエ自身が地平線に消えるまで、俺は見送ってたんだぜ?
オマエは気づいていたか?
――いや、ホントは気づいててほしくないんだ。
俺、あの時、らしくなく号泣しちまったから。
もちろん、誰にも見られないところで、だけどな。
でも。
泣いて気づいたんだ。
やっぱり、オマエのことを、1番愛してるんだって。
たとえ俺が、オマエの1番になれなくたって。
この想いだけは、どうにもできないんだって。
ヘン主…です。
………………あは☆
いや、どっちかってーと、ヘンリー→主人公、ですね。
なんか、書いててマリアが一番可哀想だった。
(ていうかヘン主って時点でマリアさんの立場が…)