text : DRAGON QUEST VI

[ 彼の瞳に棲めるまで ]


はじめから、ヤツは何かしら俺を気にかけていた。

それが、ヤツが他の連中に向けるものと、何ら変わりないことも俺には分かっていた。

いや、あいつが不特定多数に向ける優しさの中でも、どこか違うと感じられるものがあったからこそ、逆に俺はヤツを気にするようになった。

そして。
ヤツにとってトクベツな存在なんだと思いたい自分に気づいてしまった。

だが。

「テリー。どうしたんだ?」

俺を覗き込んでくる瞳は、他の連中を見る目と何ら変わりない。

コイツが、他の連中とは違った瞳で見つめる人物は、俺ではない。

俺ではないからこそ、コイツはこうして俺を気にかけている。

「ミレーユが心配してたよ。最近元気がないって」

やわらかそうな口唇が、姉さんの名前を紡ぎだす。
女のそれよりも艶やかなその口唇を、何も気にすることなく味わうことができたなら、どんなによかっただろうか。
けれど、胸の内は疼くばかりで、どす黒い感情だけが溜まっていく。

コイツが見ているのは姉さんだ。
姉さんを見ているからこそ、俺を気にかけている。
コイツのことだから、姉さんに気に入られたいからだとかいう計算高い理由なんてないだろうが、無自覚だけに余計腹が立つ。
コイツが見ているのは姉さんで、俺じゃない――考えるたびに、どこかがおかしくなっていく。

「テリー? 本当にどうしたんだよ。らしくないぜ?」

らしくない?
オマエは、俺の何を知っているっていうんだ?
俺が今何を考え、何を思っているか。
そんなこともわからないのに、よくそんなことが言えるな。

そんな意味の視線で射ても、ヤツはまったく怯むことはない。
器が大きいのか、鈍感なだけか――おそらく、この場合は後者だろう。
変わらず俺の顔を覗き込んでくる。
心配そうな、顔をして。

 ――そんな顔で誘ったのは、オマエなんだからな。

ある程度近くまで接近した顔に、今度は俺の方から近づいた。
ヤツの目が、驚きに見開かれる前に俺は目を閉じた。

想像通りのやわらかい感触と、想像外の甘い味に、俺は酔ってしまった。
触れて、それで離れるつもりだったのに。
気づいたときには、俺はヤツの口腔を犯すのに夢中になっていた。
突然のことにヤツも驚いたのだろう、歯列を割って侵入する俺は抵抗を感じなかった。

熱い。とろけそうだと、そういうことだけは冷静に思うことができた。
そのうちに、されるがままだったヤツの身体に力が入り、ヤツは自分を抱き寄せていた俺を突き飛ばした。
やっと、自分が何をされていたか自覚したらしい。

紅潮した頬で、息を荒げながら。
潤んだ瞳で、俺を見つめる。

やっと、俺を見た。

脊髄を、何かが走る。
震えるもの。
痺れるもの。
駆け昇って脳に達して、それが快感だということに気づいた。
絶対に、忘れられそうにない。
もっともっと、その感覚に溺れていたいと思うような。

未だ信じられないといった顔で俺を見つめてくる。
半分、心ここにあらずといった状態だ。
もうしばらく、動けそうにないだろう。
力が抜けて、座り込むなんてことにならなかっただけまだマシだろうか。
それでも瞳は決して揺れず、俺だけを見ている。
困惑と怒りが入り混じった、問うような視線で。

「なるほど。重症らしい」

声に出すことで確認できた。
俺は、コイツを手に入れたいと思っている。
俺だけのモノにしたいと思っている。
あの瞳が捉えるのは、俺だけでなければならないと――

我知らず、口の端があがる。
瞬間、怯えたようにヤツの肩が震えた。
どんな強大な魔物と対峙しても、勇猛果敢に立ち向かっていくのに。
俺だけだ、ヤツをこんなふうにさせるのは。

そう、それでいいんだ。
コイツにとってトクベツな存在でありたいなんて生ぬるいことを考えていた自分がバカらしい。
俺だけのモノにするんだ。
恐怖で縛るという手荒な方法で構わない。
どんな手段でもとってやる。
どんな悪人にだってなってやる。

今は姉さんに向けられている瞳が、俺だけを見つめるまで――コイツのスベテを俺だけのモノにするまでは。



なんか、やっちゃった、ってな感が否めないんですが。
書いてるうちに、素敵(?)な三角関係が閃いちゃったもんだから、それも書かずにいられません。
というわけで、別に置かなくたっていいのに、地下にこっそり置いておきます…