text : オトシモノ
[ 腕 ]
私の身体は、左肘から下が無い。
姉の身体は、右肘から下が無い。
私たちは同じ日に生まれ、同じ時の中を育ち。
そして。
同じ日に、肘から下を失った。
二卵性双生児。
だから全てが同じというわけではない。見目も性格も似てはいない。
けれどもずっと一緒だった。
ずっと。
ずっと――――。
その日、レールを走る車輪が、私たちの身体から腕を引き千切った。
私からは左腕を。姉からは右腕を。
大量の出血に、朦朧とする意識の中。すでに自分のモノではなくなった腕を見て。そして、その手が、その指が固く絡ませている、初めから私のモノではなかった手と腕を見て。
心の奥底で、何かがビキリと音をたてた。
タダデサエ同ジデナカッタ身体ニ、更ナル違イガ生マレテシマッタ。
音と同時にフラッシュバックしたのは、そんなフレーズ。
嗚呼、私は。心の奥底ではこんなにも姉を愛していたのだと。同一であると感じられるほど近しい場所に居なければ我慢ならないのだと。その瞬間、悟ったのだ。
私が失ったのは、左腕。
姉が失ったのは、右腕。
双子なのに、同じでなくなった。
その事実は、同化願望さえ抱きかねない私の想いに疵をつけたけれど。
『嫌、放さない!!』
地下の駅構内に響き渡った姉の声。
『だって決めたの。ずっと一緒だって!!』
私だけじゃない。
姉も、願ってくれている。
死ぬことさえ厭わず、ただ自分と一緒に在ることだけを。
姉と一緒のカタチであることができなくなったことも、腕を失った絶望も、何もかも、姉のその言葉が吹き飛ばしていた。
どちらの腕かの違いはあれど。腕を失ったという事実は一緒。
それに至るまでの経緯も、共有している記憶も。
姉が持つ苦しみは、私にしかわからない。
そして私は。
利き腕を失わなかった私は。
利き腕を失った姉を支えることができる。
もしこのまま二人で生きていくのなら、姉は私を頼ることしかできなくなる――。
かつて私がそうだったように、姉も私だけを見てくれる。
それはなんて――甘美な世界。
腕を失ったことが、なに?
姉がいてくれる――私にはそれで充分だ。
あなたもそうだよね。
「 ね ぇ 。 結 花 ち ゃ ん 」
初めに言っておきますが、雪咲はホラーが苦手です。
でも、林ふみの先生のコミックだというから買いました。
読んだ結果、妄想が膨らみこのような形になりました(笑)
ホラーな部分よりも、根底にある姉妹の繋がりの方にひきつけられたようです。
ある意味、映画が意識していたことが、こちらでもちゃんと発揮されていたということなのかなぁと思ったり。
とか言いつつ、書きたかったのは結局百合ですからね。
雪咲ってば、どうも趣味の幅が広がってきたようですね(笑)