text : PAPUWA

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 西日差し込むパプワハウス。家政夫はおバカな頭を総動員してある手紙をしたためていました。
「イトウやタンノが羨ましくてなりません。どうしてあぁもあなたに近づけ、そして眼魔砲を受けられるのか……」
 便箋は、某有名ランド限定発売のファンシー便箋、使っているペンもラメ入りきらきらレインボーペンです。どこまでファンシーで乙女なんだこの家政夫は、と突っ込みたくなりますが、とりあえずここは我慢です。
「この想い、あなたに伝えられたらどんなに楽でしょうか……と。こんなもんだな」
 家政夫の想い人は今、この家の家主と散歩を兼ねた食料調達に行っています。家政夫はひとり、夕飯作りに励んでいたのですが。煮込みに数十分費やすため、その時間を利用して手紙をしたためていたのです。
「えーっと、封筒封筒、と。どーせ出さねぇんだけどな。でも形は形だしな。これでいくらかシンタローさんへの愛情も発散させたことだし、しばらく間違いは起こさないだろ」
 襲ってしまうかもしれないという自覚はあるようです。襲ったところで返り討ちにあうのは誰の眼にも明らかなのですが。……いえ、その返り討ちの痛みすら、もう彼には至福の刺激となっているのかもしれません。
 ともかく。家政夫は中に手紙を入れる前に封筒に宛名を書く作業に移ったようです。宛名は……『ガンマ団本部総帥室内 シンタロー様』となっています。……家政夫は、そのドリームに浸るために本格的に、本気でやってるんです。もちろん切手も貼ってあります。あとはポストに投函するだけという状態にまですすめる気でいるんです。そこまで頑張っている家政夫に、これ以上苦言など言えるはずがありません。そんな宛名で届くかこのファンシーヤンキーめ!なんて思っても口にしてはいけません。あまりに家政夫が可哀想です。
「よぉーし!かーんせ〜☆……お、シチューの方もいい感じにできあがってるみたいだな。どれどれ……」
 どうやら夕飯は家政夫特製(シンタローさんへの愛情たっぷり)ビーフシチューのようです。愛情ゆえでしょうか、ものっすごく手間をかけているようですが。
「野菜も火が通ったし、こっちも完成だな。あとはシンタローさんたちが帰ってくるのを待つだけ……ってやべぇやべぇ。こんなのテーブルの上においといたら、後で何言われるか」
 ビーフシチューがグツグツ煮えている深底鍋の前で、ピンクエプロンを身につけた男が、可愛らしい封筒をその胸に抱いてトキメいている様は、一体どう表現したらいいのでしょうか。力足らず故、巧く表現できないことを深くお詫び申し上げます。
「フッフフ〜ン♪香りの方もいい感じだし。シンタローさんはやく帰ってこないかなぁ。っと、その前に万全を期しておくか。味見味見っと」
 もともとの下っ端属性というか、それまでもそれほど文句を言わず家事料理をこなしてきた家政夫ですが。彼の想い人であるシンタローさんも過去、この家で同じようなことをしていたというだけあって、家事料理に関する話だけは共通の趣味(?)として普通に会話が成立しているのです。そう、共通の趣味!そんな趣味のひとつである料理でシンタローさんに失態を見せたくないのでしょう、家政夫はいつになく真剣です。
「ん〜……もちっとスパイス効かせた方がいいかなぁ。えーっと、胡椒コショウ〜っと。それから塩〜」
 調味料に手を伸ばす家政夫。手紙は鍋の横です。ダメですね、大切なものをこんなところに置くなんて。ホラ、案の定。
「あぁぁぁあ〜〜〜〜〜ッツ!!」
 鍋から飛び出したシチューの滴が手紙を急襲です。出すつもりはなくとも、お守りとして枕許に忍ばせて眠ろうかと思っていた家政夫です。それはもうショックでならないようです。
「せっかく……せっかく書いたのに……俺が、心を込め、込め……て……ックショイ!!」
 とことん家政夫は運に見放されているようです。悲しみのあまり、顔から出せる全ての汁を出していた家政夫、鼻をすすったところ、異物も侵入してしまったようで(どうやらさきほどふりかけた胡椒にも原因があるようです)。身体は正直にそれを追い出そうとしました。その結果のクシャミです。不可抗力なのです、仕方ありません。たとえクシャミによって、さらに手紙がぼろぼろになったとしても、家政夫は身体の生理的機能を恨む以外に道はありません。
「……うぅっ……俺は夢を見ることすら許されないのか……」
 なんて哀れな家政夫。脱力し、ついにはその場に座り込んでしまいました。しかし。運に見放されても、神までは彼を見捨てなかったのでしょうか。なんと家政夫愛しの人、シンタローさんが帰宅したのです。……いえ、正確に言えばまだ帰宅してはいないのですが。恋する乙女の為せる業と言うべきか、数十メートル離れた場所にいるシンタローさんの声が聞こえたのです。
 傷心していた上、混乱していた家政夫は、それだけで救われた想いがしたのでしょう。思わず外にまで出迎えに行ったのです。ごめんなさい、シンタローさん。あなたへの手紙をこんなにしてしまって。そんな家政夫の心の懺悔が聞こえてくるようです。ええ、その彼の手にはしっかりとその手紙が握られていますよ。

「……ンだ?そのきったねぇ手紙は。しかも俺宛てだァ?嫌がらせかこの野郎。いい度胸してんな、アーン?」

 これ以上書くことは何も無いですね。というわけで、パプワ島のとある平凡な一日の、穏やかな夕暮れの1コマでした。



勢いで書いた話です
愛ゆえ、です リキッドがキモいのは(苦笑)