text : PAPUWA <theme from "Here">

[ あの笑顔を見て死ね ]


「隊長ォ……ホントに俺なんかがこんなところ入っても大丈夫なんスか?」
 ガンマ団本部、しかもその上層部に、特戦部隊に入隊して間もないリキッドはいた。目の前を何の迷いもなく突き進んでいく隊長ハーレムの後を、田舎から上京してきた若者のように辺りを見回しながらついていく。
「あー?いーンだよ。文句言うヤツがいたら俺にまず言えっつっとけ」
 ガンマ団――それは世間に反発して生きてきたヤンキーだった頃でさえ、リキッドはその存在の恐ろしさというものは知っていたつもりだった。もちろん、それは別世界の存在のようで、身近に感じたことなどなかったが。特に特戦部隊などというものは、名前こそ知っていても、その活動内容・規模などは常人には未知のもので。自分の聖地と疑わなかった場所で拉致られ、強制的に入隊させられたというものの、その大きさというものはあまり実感していなかった(すぐに実戦に投入されたということで、恐ろしさは嫌でもすぐに実感させられたが)。自分の鳩尾に一発入れて拉致った本人の非道さは理解したが、このような一小隊の隊長にすぎない人物だから、それほどの権限があるとは思っていなかった。
 がむしゃらに特戦部隊隊員としての日々を生き抜いていたリキッドに、数日前、突然ハーレムが言い出した。兄貴に挨拶しに行くぞ、と。隊長のお兄さん?と首を傾げるリキッドに、同僚達は笑って言った。ガンマ団総帥だ、と。ガンマ団総帥の噂は、ガンマ団に身を置くようになって昔よりもさらに耳に入るようになっていた。街をひとつ一瞬で消したとか、総帥を怒らせて生きて帰ってきた者はいないだとか。その総帥に会う、ということでリキッドは一瞬身を固くしたが、それでも妙に納得している自分もいた。ハーレムはその総帥の弟――そんな総帥の弟だからこんな傍若無人なんだな、とか、隊長のお兄さんならそれも頷けるとか、そんなことを考えていた。
「(確かに一小隊の隊長があれだけのガンマ団飛行船を自由に行き来させるなんてできないよな)」
 至るところに最新警備システムの配備された基地内を行きながらリキッドは思う。監視カメラに赤外線トラップ。ハーレムは慣れた手つきでそれを解除しながら進んでいく。その多さにリキッドはいい加減飽きても来たが、リキッドが生活の場としている飛行船もこれに近い設備が整っている。一般団員ではこれほどの待遇は得られないだろう。
「でも隊長。なんで俺が総帥に挨拶に行かなきゃいけないんです?普通、団員は総帥と面と向かって会えることすらないんじゃないですか?」
「んー?オメーの入団手続きとかメンドクサイんでな。手っ取り早く兄貴に会わせて了承させる」
「入団手続き……って俺、まだガンマ団に入ってなかったんスか!?」
「入隊手続きなら済ませたけどな」
「それってもしかして……初戦から帰還した後の、祝勝会兼歓迎会と称した100時間耐久拷問大会のことスか?」
「拷問とは酷いねェ、リッちゃん。ただのスキンシップじゃねェか」
 言って、ハーレムはちろちろと蛇のように舌を動かしてみせる。がっしりと肩を組まれれば、あの悪夢のような拷問が脳裏に浮かび、目から口から鼻から流血せざるをえない。ここはガンマ団本部、あまりにあの時のことがショックだったとはいえ、ここで騒ぎ立てては何が起こるかわからない、とリキッドは己に言い聞かせてぐっと我慢する。
「ま、オマエもなかなかやるようになってきた。ノルウェー沖での特訓にも耐えた。ってことでそろそろ兄貴に会わせてもいい頃かと見たわけだ」
「隊長……」
 それまでの様々なイジメには目を瞑るとして。ここまで成長(?)するまで見守ってくれたことに少なからず感謝するリキッドだったりする。
「とりあえず、今日が最後の試練だ。これを乗り越えればガンマ団に入ることになり、正式な特戦部隊の隊員になれるからな」
 いつの間にか総帥室の近くまで来ていたリキッド。先程のハーレムの「最後の試練」という言葉が気にならないでもないが、とりあえずハーレムが総帥の側近と思わしき男と話をしているのを見ていた。
「――しかし、今は誰も入れるなと」
「固ェこと言うなよ、ティラミス。オメーだっていつも来客があれば報せに行ってるだろ。今日はオマエは行かなくていいから。俺達が直接入るんだ、それなら構わないだろ。オメーは何の被害も受けねぇんだしさ」
 ……被害?やはりここは聞き捨てならない。説明を求めようとハーレムに詰め寄ろうとしたところで、満面の笑みを浮かべてハーレムが振り返った。
「さーリキッド。兄貴に会いに行こうぜ〜。感動の対面だ!」
 どうしてそんな嬉しそうなンすかー!? と、リキッドは泣き笑いながら思った。どうみてもこの笑顔は、久方ぶりに兄に会えて嬉しいなどという笑みではない。リキッドがこれからどんな目に遭うか想像しての笑みだ。気配を悟られないように入るんだぞ、と念押しするハーレムに、もぉどーでもイイっす、と人生を悲観しながらリキッドは総帥室に足を踏み入れた。
 その瞬間、リキッドは我が目を疑った。なんだこの部屋わッ! そう叫ばずにいられないその部屋の様相とは。
「うぅっ……シンちゃん……どぅしたらもう1度、パパのこと大好きって言ってくれるんだい?」
 壁の至るところに1人の少年の写真が(豪華な額縁つきで)飾られ、部屋の奥にはかなりキラキラした笑みを浮かべる(王子様ルックの)青年の肖像画がかけられていて。机の上にはもちろん写真立て、ソファや棚には大小さまざまな人形(もちろん1人の人間を模ったものに限られる)が置かれていて。当の総帥本人は、こちらに背を向けて何やら熱心に見つめている。どうやらホームシアターで昔の映像を見ているらしい。その腕の中には、とびっきり大きい抱き枕のようなぬいぐるみが抱かれている。
おいリキッド。声かけろや
えっ!隊長、それは無理っスよ!
 仮にも、この総帥を怒らせて無事生きて帰った者はいないというのだから。その正体がかなりの変態だとしても、その噂の真相を自ら確かめる自己犠牲の精神などリキッドは持ち合わせていない。
仕方ねぇな〜。――兄貴、息子のぬいぐるみ抱きながら昔の思い出に縋るのはいい加減やめろよナ!」
 くるっ!カチッ!ビッ!!
「誰も入れるなと言っただろうっ」
 リキッドが「え?」と思う間もなく、総帥はこちらを向き、手元のスイッチを操作。壁にかけられた写真や肖像画が反転して壁の中にしまわれる。その瞬間隣にいたはずのハーレムはしゃがみこみ、リキッドの陰に隠れた。そして同時に総帥の目から光線が発射され、リキッドに直撃。気づいた時にはリキッドの頭はアフロヘアーに変貌を遂げていたのである。
「……ハーレムか。何の用だ」
 言いながらハーレムの兄であり、このガンマ団の総帥であるマジックは再び手元のスイッチを操作して、部屋を復元し始めた。弟だから隠す必要も無いのか?などとリキッドは思っていたが。
「秘石眼の力の影響で痛ませたくないのなら、総帥室にシンちゃんグッズ持ち込むなよ」
 ……どうやら違うらしい。シンちゃん……とは息子のことなのだろうか、と再びその姿を取り戻し始めた総帥室を見ながらリキッドは思う。しかし、この溺愛ぶりは異常ではないだろうか。こうやって育てられた子どもってロクな人間にならないんだよなー、などとリキッドが考えていると。
「ところで。その見事なアフロヘアーの彼は誰だい?」
 どうやらマジック総帥はそれほど機嫌を損ねていないらしい。とりあえず死ぬようなことはなさそうでほっとしつつ、アナタのせいでこんな頭になったんデス、とリキッドは心の中で呟いた。
「最近俺の部下になったリキッドだ。士官学校も入団テストもクリアしてねぇが、そこそこ使えるんでな。手っ取り早く兄貴の了承を得とこうと思ってな」
「ふむ……オマエも各地でスカウトするようになったか。特戦部隊はガンマ団でも選び抜かれた精鋭しか入隊できないのだが……オマエが認めたというのなら実力もあるのだろう。構わん、自由にしろ」
「おう。そうさせてもらうぜ」
 どうやら自分のことで問題が起こることはなさそうだ。胸をなでおろすと、マジックがにこやかにこちらを見つめてきた。
「リキッドくん……だったね。ハーレムの兄のマジックだ。愚弟だが、ハーレムのこと、よろしく頼むよ」
「は、ハイッ!こ、コチラこそよろしくお願いします!特戦部隊の一員として恥じることの無いようガンバルっス!!」
 総帥がシンちゃん人形の手をぴこぴこと動かしていることはこの際気にしないでおくことにしよう。それさえ目を瞑れば、何と威厳に満ちた総帥だろう。上司としては、この獅子舞隊長よりもよっぽどマシである。そう、この部屋の様相を気にしないでおけばの話だ。
「あぁ、そうそう。この部屋のことは気にしないでおいてくれたまえ。今は休憩中でね。公私混同は避けているのだがね」
 リキッドの視線に気付いたのだろうか、マジックはにっこり笑って言う。イエ、仕事場に息子を想起させるものをこんなに持ち込んでる時点で公私混同してるっス。と、リキッドは心の中で今日何度目かのツッコミをした。
「特戦部隊のことについては私よりハーレムの方が詳しいからな。その辺ももう聞いているだろうから私から説明することはない。用がないというのなら早々に引き上げたまえ。こんなところで油を売っているほど、特戦部隊は生ぬるいところではあるまい?」
「は、ハイッ!そうっスね!失礼します!……って隊長?行かないンすか?」
「ァん?行くけどよォ……兄貴、休憩時間削ってまでお手製シンちゃん人形縫うのやめろよナ」
「何を言うハーレム!この時間は私にとって何よりも至福の時間だぞ!それを邪魔したにも関わらず、無事にこの部屋を出られるだけでもオマエたちは運がいいんだぞ!!」
「ったく……。そンなに息子に構いたきゃ、さっさと俺に総帥の座譲って隠居しろって言ってるだろ」
「それはヤだ」
 お手製かよ!隊長が総帥なんてそれこそ絶対ヤだ!……などなど、ここでもいろいろツッコむところは盛りだくさんだったのだが、いい加減リキッドは疲れきっていて。何より無事この部屋を出られただけでもう幸せだった。
 部屋を出る瞬間、お辞儀をしようと振り返ると、総帥は早速「シンちゃんメモリアルシアター」の上映に夢中になっていて。しかしその手はしっかりと針と糸の準備にとりかかっている。さらには鼻歌まで歌う始末だ。あぁ、確かに幸せそう、と思いながら、リキッドはマジックの背中から垣間見える映像を見た。
 10歳にも満たない子どもが無邪気にはしゃぎまわっている。若いマジックの声が「シンちゃんはパパのこと好きかい?」と訊ねる。すると画面の中のシンちゃんはにっこりと笑って言う。「ぼくパパのこと大好き!」と。
 その映像を見る限りでは、彼の息子は曲がって育ってはいないらしい。そして思うのは、世界が震え上がるガンマ団総帥と言えど、息子の前では普通の優しい父親になるのだということ(その愛情は、少々過剰ではないかとは思うが)。ガンマ団総帥であるマジックと、父親であるマジックとの間のギャップがまた恐怖でもあるのだろうな、とリキッドは考えながら退室した。いや、おそらくこの父親としてのマジックを知る者は、ガンマ団の中でも限られているのかもしれない。総帥室の外に控えていた2人の側近――ティラミスとチョコレートロマンスというらしい――の自分を見る目の険しさからもそれは窺われる。このことは他言無用だと言っている目だった。漏らせばどうなるか分かっているだろうな、と脅しているようにさえ見える。確かに、天下のガンマ団総帥がこのような人間だと知られれば、それだけでいろいろと問題も起こるだろう。また、マジックにとって息子が弱点だと知れ渡れば、それだけその息子に危険も及ぶだろう。もちろんリキッドは、このことを誰かに話したりするつもりなど微塵も無いが(たとえ言ったとして信じてもらえないのが関の山だろう)。
 そういえば、とここでリキッドはその息子が今どうなっているのか気になった。溺愛されて育った子どもはロクな大人にはならないんだよな、と考え、しかし先程のホームビデオを見る限りではその心配もなさそうで。あのホームビデオは何年前くらいのものなのだろう。
「あの、隊長」
 マジックの息子ということは、ハーレムの甥にあたるわけで。ハーレムはそのマジックの息子が今どうしているか、知っている可能性は多分にある。前を行くハーレムは、リキッドの呼びかけに対し、面倒くさそうに振り返った。
「ん?――そーいや最後の試練クリアだな。溜めナシ眼魔砲がくるかと思ってたが、秘石眼ビームだけで済んだか。どっちみち、生きてあの部屋から出られたらタフさに問題も無いと踏んでたからな。よくやったな。これでテメーもガンマ団特戦部隊の一員だ」
「あ、ありがとうございマス……ってそうじゃなくて。あの、総帥のムス――っテ!?」
「余所見して歩いてるからだ、阿呆」
 誰かにぶつかって尻もちをついて。ハーレムにぶつかったのかと思ったがそれも違ったらしく、降ってきた声は別の男の声だった。
「よォ、シンタロー。久しぶりだな」
 見上げると、ハーレムと、ハーレムを真っ正面から睨み据える男の姿があった。一般団員が着ているガンマ団制服を身につけ、しかしその堂々とした威厳が彼を特別な存在たらしめている。漆黒の髪は後ろでまとめられ、整った顔立ちがまたその髪の美しさを際立たせていた。
「何しに来たんだよ、ハーレム」
「おじさんに向かってその言葉遣いはねェんじゃねぇのか?テメーの尊敬するサービス叔父さまの双子の兄上に向かって」
「ハッ!誰がテメーなんざ」
 一卵性双生児じゃなかったのがせめてもの救いだ、などと言い合っているその男を見て、リキッドは言葉を失った。あの隊長に臆することなく立ち向かっている、この男。ハーレムがシンタローと呼んだこの男――彼があの総帥が溺愛する息子だろうか?
「――アンタに構ってる暇はネェんだよ。さっさとソコどきやがれ」
「ア?この先っつったって、この先にゃ機密情報端末室しかねぇだろ。何があるってんだ」
「アンタには関係ない。どかねぇなら眼魔砲ぶっぱなしてでも押し通る」
「穏やかじゃねぇなぁ。確かにテメーがナニしようと俺には関係ねぇが。団に迷惑かけるようなことじゃねぇだろうな」
「テメーに言われる筋合いはねぇ」
「ま、それもそうだな。さーてリキッド。あとはテメーの分の給料、前借りしてくだけだな。行くぞ」
 それが本当の目的っスかー あまりに輝いているハーレムを見て、無駄だと分かっていても思わずにいられない。一方シンタローはと言えば。ハーレムのそんな様子など気にも留めず、辺りの様子を窺っている。まるで、誰かの目を気にしているかのように。ガンマ団総帥の息子ならば、ここで何をしようが構わないように思うのは自分だけだろうか。
「あ、あの……シ……ッツ!!」
 声をかけようとしたところで冷たい目に射抜かれた。あのノルウェー沖で体験したよりも身の凍る冷気と、凄まじいまでの殺気。
「ンだよ」
「い、いえ……何でもないっス――すんません」
 圧倒的力の差を見せつけて強制的にガンマ団特戦部隊に入隊させてきたハーレムにも、日々えげつない嫌がらせを仕掛けてくる同僚達にも、これほどの恐怖を感じたことはなかった。あの拷問のような日々を考慮に入れても、だ。ハーレムよりも、同僚達よりも、ずっと年の近いこの男にこれほどの殺気を感じるのは何故だろう。
 しかし、とシンタローが通路の角に消えていく様を見ながらリキッドは思う。冷たさと恐怖と共に危うさが感じられた。長い間緊張しっぱなしで、いつか切れて壊れてしまいそうな。息を張り詰めすぎて、窒息してしまいそうな。触れるもの全てを敵とみなしているような。とても孤独な子どものように思えた。どこか放っておけない、自分ではない誰かでもいい、彼を救ってやってほしいと思わせる雰囲気を、彼は放っているように思えた。
「おらリキッド!行くぞ!」
「あ、ハイ。すんません」
 あの先にあるのは機密情報端末室だという。そんなところに、シンタローは一体どんな用があるというのだろうか。経理課に向かうハーレムについて行きながらリキッドは考えていた。
 すれ違いざまにシンタローが呟いた言葉が妙に耳に残っていた。
 ――コタロー……絶対に探し出してやるから、待ってろよ。





 あれはもう6年も前のことだ。
 あれから俺は、がむしゃらに、それまで以上にがむしゃらに戦ってきた。戦うしか生きる術はなかったから。あんな生活をしていれば、それなりに強くなるのは当然のことだ。ある程度強くなければ、生き延びることはできなかったのだから。
 上司の給料横領にも、同僚の厭味ったらしい言動にも耐えながら生きてきたけれど。その間、まったくガンマ団本部によりつかなかったわけでもなく。それなりに情報は手に入れたりすることはできていた。
 マジック総帥の息子シンタローさんは、俺が出会ったあの日よりもずっと前から、少なくとも3年以上まったく笑った顔を見せていなかったらしい。常に刺々しい雰囲気でいて、士官学校時代のクラスメイトでさえなかなか近づこうとしない。シンタローさんがそのような状態になってしまった原因は、弟であるコタローと引き離されたことにあるのだという。さすがにガンマ団機密情報端末に隠されていた情報が何であったかは、俺には探ることなんかできなかったけれど。コタローに関係あることだということはバカな俺でもわかる。あの追い詰められたシンタローさんを見ればそれは明らかだった。
 あの出会い以来、シンタローさんのその後の動向が気にならなかったわけではないけれど。俺も生き抜くのに精一杯で、次第に彼のことを考える時間は少なくなっていった。世界各地を転々としていくうちに時は流れ。俺達はあの島へと辿り着く。

 最近、妙にそのことが思い出されて仕方が無かった。俺はこうして何度も思い出すけれど、シンタローさんは覚えているのかなって考えたり。あの時はまさかシンタローさんが総帥になるなんて思ってなかったし。4年前に至っては、ガンマ団と特戦部隊に敵対する位置にいたんだもんな、シンタローさんも。でも。4年前も、確かに俺は感じていた。初めて会った時のあの雰囲気が、この島に来て変わっていたということに。
 それから俺はシンタローさんとは入れ違いでこの島にいつくことになった。だから、その後のシンタローさんのことは何も知らなくて。赤の秘石の番人に正式になる直前にふらりと立ち寄ったガンマ団で、シンタローさんが新しい総帥になったということを噂に聞いた――その程度だった。
 出会った日のシンタローさんを思い出して仕方ないのは、きっとあの笑顔を見てしまったからなのだと思う。パプワと一緒に、この島での生活を満喫するシンタローさん。その笑顔は、6年前のあの人と同じ人のものなのかと思うくらい輝いていて。6年前とは全く違った意味で気にかかるものだった。確かにコタローは解放されて(今はまだ離れ離れだという事実は変わらないけれど)、あの時とは状況はまったく違うものだけれど。それでもあの笑顔を見るたびに思ってしまう。シンタローさんをあれほどの笑顔にさせてしまっているものは何なのだろう、と。
「リキッド。――オイ、リキッド!」
「え?あ・ハイっ!」
「ったく、昼間っから寝ぼけてんじゃねぇよ。パプワが探検に付き合えってんで、ついでに食糧確保に行ってくる。なんか要るモンとかあるか?」
「いえ、特にないッス。シンタローさんにお任せするんで、よろしくお願いします」
 ホントは一緒について行きたかったりするんスけどね。そんなこと口が裂けても言えないところが辛いところだ。あの2人(+1匹)の間には、俺なんかが入っちゃいけない雰囲気ってのがある。常にそうだってことはないのだけれど。空白の4年間というものの存在を俺も知っているだけに、尚更その雰囲気を感じずにいられない。
「そか?じゃ、洗い物とか頼んだぞ」
 そうやって、シンタローさんは俺に笑いかけてくれる。パプワと一緒にいる時に見せるものとはまた違ったものだけれど。それでも俺の心臓を鷲掴みするのには十分だったりする。
「おーい、パプワ〜!出発すっぞー!!」
 俺はパプワハウスの中。シンタローさんとパプワとチャッピーは外にいる。開かれた扉から見える2人と1匹の和やかな雰囲気。そこにいるシンタローさんの笑顔は特別なんだ。やっぱり、羨ましいと思ってしまう。シンタローさんの笑顔だったら、どんな笑顔も好きだけど。俺はあの笑顔が一番好きだったりする。でも、あの笑顔。この島で初めて見た気はしないんだよな。そう、初めてシンタローさんに会ったあの時を思い出すのも、その思い出の中のあの笑顔が印象的だったからなのだと思う。
 ――ぼくパパのこと大好き!
 本当に一瞬しか見ることはできなかったけれど。あのホームビデオに収められたシンタローさんの笑顔、あれは、今シンタローさんがパプワ達に見せているものに限りなく近いように思う。つまりあの笑顔は、彼が、大好きだと思う人に見せる笑顔だということだ。
 俺はあの笑顔が好きだ。パプワに向けられている分には、それほど嫉妬を感じたりはしないのだけれど。でも、いつかあの笑顔が俺に向けられたらと、罪深いことを願ってしまう。もしそうなったら、俺は嬉しさのあまり昇天してしまうかもしれない。
 でも、人生最後の記憶に残るのがシンタローさんの笑顔って……それってスッゲェ幸せなことじゃねぇ?



マジック総帥は幸せすぎて鼻血、なんですよね。
リキッドは幸せすぎてフツーに昇天だと思います。

時間軸とか、結構曖昧です。
ガンマ団入団何年目でリキッドは赤の番人になったんでしょうね。
きちんと調べろって?ヤだそんなのメンドくさい ←オイ!
どうせ私の書く話なんて捏造甚だしいんだし ←オイオイ!!
書いてる本人が楽しけりゃそれでイーんだよ!! ←オイオイオイ!!!!
……失礼しました(笑)

今回書きたかったのは…0話、だっけ? 南国の。
シンタローが、コタローが日本にいるのを突き止めるって話の直前をちらりと書いてみたかったんです。
そこで無理矢理リキッドが運命の出逢い(笑)を果たすという、そんなお話でした。

というか、お題の意味を履き違えてる気がする…